こんにちは、たなけん院長です。
これは10年以上前、まだ勤務医であった頃に体験したお話しです。
ある夜、当直をしていると救急車受け入れ要請の電話が鳴り、
「患者は40代の女性、ご主人と夜にサイクリングをしている最中に誤って、側溝に転落し、頭から血を流しているので受け入れてください。」
という内容でした。
当時勤務していた病院には脳神経外科の常勤医がいなかったのでいつもなら断るのですが、さいわい、意識はしっかりしているとの連絡だったので受け入れる事にしました。
その女性は電話の内容通り、意識もあり、しっかり受け答えもしていました。
聞くところによるとその日の夜は町中をライトアップしてきれいにしているために観光客で賑わしく、ご主人とサイクリングが趣味なので走っている間に暗闇で土地勘もないために側溝に落ちてしまったそうです。しかし、ヘルメットをしていなかったので頭を強打してしまったとの事でした。
なので頭の傷は結構深かったのでまず、しっかり迅速に縫合処置をして頭部CT検査をする事にしました。
ところがCT検査の結果で脳に軽度のダメージが認められたためにご本人と付き添いのご主人に状況をご説明し、急遽、救急車にて専門医のいる病院へ搬送しました。
そのとき、不安そうにしている奥さんにご主人が「大丈夫、大丈夫」と言って一生懸命励ましている姿が今でも鮮明に記憶に残っています。
翌朝、昨夜の患者さんは搬送先でいったん落ち着かれたのですが明け方に容態が急変し、治療の甲斐なく、息を引き取ったとの連絡がありました。
この仕事に就いてつくづく思うことがあります。人生は本当に儚(はかな)い。
大切な人は生きているだけでありがたく、幸せな事である。
だから、今日一日、今、その瞬間も自分を、一緒にいる人を大切にし、ありがたいと思わなければならない……
でも出来ない。
日々、修行の毎日です。