こんにちは、たなけん院長です。
今日は整形外科の外傷の一つである ” 肩の脱臼の戻し方 ” についてお話しします。
よくテレビなんかで主人公が敵と戦って肩が脱臼してしまった時にどうしているかというと力任せにドーンと元にもどして整復しているのを見ます。
では、救急外来ではお医者さん達はどうしているかというと麻酔薬という眠り薬を点滴して、患者さんを眠らしてから脱臼を整復します。
では、なぜ、そうするかと言えば、脱臼したことがある方なら分かると思いますが脱臼した肩はちょっと触ろうモノなら男であろうが女であろうが、老若男女全員、悲鳴を上げ、とてつもない力が入ってしまい、関節を元に戻すことなどできません。たとえ、力の弱いおばあさんでも全然、歯が立ちません。
だから、麻酔薬で眠らせてから痛がらないようにしないと力が抜けて整復できないのです。
わたしもある病院に行くまではそうしていました。でも今は違います。
ある病院とは岐阜の白鳥町にある鷲見病院というところに行ってからです。ここはスキー王国岐阜の数多くのスキー場の根っこに位置する救急病院でシーズンともなると日本一、スキー、スノーボードで怪我する患者さんが運び込まれる病院です。
私の所属していた大学のバイト先であったので若い頃に鷲見病院に初めてバイトに行ったときです。
肩の脱臼なんて普通は一年に一人、診るか診ないかくらいの頻度なのですがここは一日何人も来る日があるくらい普通に脱臼、骨折が来る病院でした。
だから勤務する前は教科書で読んだヒポクラテス法やなんとか法を頭の中で繰り返し、復習していました。
そしていよいよ、脱臼患者が来院するとの連絡!、でもそんなときに頼りになるのはベテラン看護師さんです。私が脱臼なんてあんまり整復した事なんてないからいざってなったら麻酔薬点滴するって言ったら
「先生、大丈夫、私らがいるんで心配ないよ。先生はただ、引っ張っておけばいいから」
みたいな呑気なこと言っているので大丈夫かなと不安になっていました。
そんでいざ患者さんがきたらホントに先生は患者さんが痛がらんようにゆーっくり引っ張ってだけ言って看護師さんは患者さんの耳元で
「はーい、力入れたら戻らんから深呼吸してとにかく力抜いて~、はい、力抜いて~」これをずっと言っているだけなのです。
私は内心、なんやこれはこんなんで戻るんかいな?と思いながら仕方なしに言われるがまま、やっているとあら、不思議、だんだん、ゆっくり元に戻ってくるのが分かるのです。
それである瞬間、ゴクッって感じで整復されたときには逆に私が感動したくらいなのを今でも覚えています。
えーー、こんなんで治るんや!です。教科書に書いてあったヒポクラテス法やらなんとか法ってなんやったんや?です。
でもこれはこの病院ならではで編み出されたもんで、いちいち脱臼した人を点滴して眠らせて整復していたら次から次へと来る患者さんに対処できないので長年の経験から編み出された秘技だと思いました。
これを一回経験したら後は実技訓練として数人患者さんで経験すれば簡単に会得できるのでその日の内に脱臼来るなら来い!状態になれます。
これの一番いい方法は脱臼整復の際に力ずくでやるより肩の関節を痛めないことが大きいと思います。素晴らしい技です。
整理します。ただ単に患者さんに痛みを感じない程度に腕を引っ張っているだけで気を紛らわすために常に力を抜くように話しかけ続ける。これだけです。
戻った時の爽快感と患者さんのヒーローを見るような目、あと私のドヤ顔、これだけで十分です。
肩の脱臼整復は今や私の得意中の得意技の一つとなっております。