こんにちは、たなけん院長です。
以前、私の後輩というお話をいたしましたので今回は私の師匠のお話しをしたいと思います。
師匠は私が医者になってすぐ、大学病院で働き始めた頃、医局のナンバー3という雲の上の存在でした。
私は研修医の頃から、かなり生意気な若造だったので、先輩であろうと教授であろうと気軽に話しかけていたのですが、その私ですら、師匠は気軽に話せるような人ではなく、センパイ達はとにかく、びびりまくっていて、噂では怒られて泣かされたセンパイもいたというくらいコワ~イ先生でした。
しかし、手術の腕はピカイチで厳しいけどそれに耐えられたら、たいしたものであるというセンパイ達の評価でした。(ちなみにセンパイ達はそのシゴキに耐えれなかったそうな)
しかし、元来、怖い物知らずの私は数年後、大学から市中病院に赴任していた師匠のところへ先輩の忠告も聞かずに人事に頼み込んで行かせてもらいました。
市中病院であろうとも、厳しさはあい変わらず、むしろパワーアップしていた師匠に他の先輩達はメチャクチャ怒られていたのですがなぜか、私はあまり怒られず、いろいろ教えていただき、1年くらいしたら独り立ちまでさせてもらえるくらいエコヒイキをされました。
いろいろ教えられた中でも一番、頭に焼き付いているのは
「医者にとって一番の宝物はうまくいかなかった患者さんだよ。」
「術後、調子がいい患者さんはすぐに忘れてしまうけど、治療がうまくいかずにご迷惑をおかけした方は死ぬまで私は忘れないと思う。その悔しい気持ちと二度と同じ過ちは繰り返さないという気持ちがあったからここまでこれた。だから、その人達は私の財産だ。」
と言っていました。
若い私は「先生、カッコつけてんな」とその時は何言っているのかサッパリ分からなかったけど
今なら、 ほんと、先生の言うとおりでした。と言いたいです。
治療の最前線で頑張っておられる先生達はみんな100戦100勝の負け知らずみたいな方は一人もいません。
外科医の先生方は皆さん、たった1回も負けが許されない戦いを一生懸命、気持ちを振り絞って、膝をガタガタさせながら頑張っていると思います。有名になればなるほどさらに治療の難しい患者さまがいらっしゃいます。でも、我々、医者は神様ではないので一生懸命やってもうまく治療がいかないこともまれにあります。
だからそのときにどれだけ多くの患者さんをお救いしても一人うまくいかないだけでチャラになるくらい、ダメージが大きいのが外科医の仕事です。
昨今、外科医の人数が減っているとの報道も見受けられます。
それはそうです。我々だって弱い人間なので治療がうまくいかなかった患者さんをみるのは本当にツライです。挫折します。それがつづけば辞めたくもなります。それを見聞きした学生は外科医になるのをあきらめます。割に合いません。
でも師匠の言うようにそれがあるからさらに技術を磨こうと懸命に努力する、また、いつか挫折する、そんな仕事が外科医の仕事です。修行僧のようなものです。
今日も私と師匠は ”外科医の心” を秘めながら頑張っています。
私の師匠は腕もさることながら、この人からこの一言をいただいただけでも私は医者として幸せだと思っています。
師匠、今日もアツい手術をしてるかなー。